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公開日 : 2022年03月28日

「もったいない」からはじまるヤマと木の話

北海道厚真町。

林業を産業の1つとして大切にしているこの町で「ATSUMA96% PROJECT」は生まれました。
2018年9月6日の北海道胆振東部地震で被災した木々に、デザインの力で新たな命を吹き込むプロジェクトがスタートしました。2020年9月6日にキックオフイベントを行い、厚真町の林業関係者、そして全国から集まったメンバーと共に、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ前に進んでいます。

そして、プロジェクトが進む過程で「一般社団法人ATSUMANOKI 96」が発足し、活動はさらに広がりを見せています。

2022年2月20日、全国から参加者が集まりオンラインイベントを開催しました。
その模様をご紹介します。

過去のイベントについては、こちらからご覧いただけます。

<過去のイベントレポート>
北海道厚真町から生まれた「ATSUMA96%」の次なる挑戦
忘れられゆく災害の記憶を、年輪に刻む『ATSUMA 96% PROJECT』始動
多様な林業のカタチ 北海道厚真町の挑戦



厚真町の紹介とこれから目指す森林との関係

▼登壇
厚真町役場産業経済課 主幹 宮 久史
まずは、厚真町役場産業経済課の宮さんから厚真町の紹介と林業の取組みについてお話を伺いました。

厚真町では、森林の保全と利用を両立させることに取り組んできました。そして、様々な取組みを通じて、林業に関わる人とそのつながりを育んできました。

「2013年に丹羽林業の丹羽さんが厚真町に戻ったことがきっかけで、若い林業の担い手が増えた。」と宮さんは言います。丹羽さんに続き、地域おこし協力隊として永山さんが丹羽林業に入ったことだけでなく、2016年にはローカルベンチャースクールの取組みが始まり、西埜さんが厚真町で馬搬の仕事を始めました。

厚真町では、一貫して、森林保全と利用の両立を掲げてきました。それをベースに、木材を生産し、付加価値をつけて町外へ販売し、それを続けることで、人や木などの資源が集積することを目指してきました。

「その流れが2018年に起きた震災の影響で、当初描いていたような林業の姿ができなくなってしまった。」と宮さんは語ります。
震災後まずは、林業インフラを復旧、使えるものをなるべく利用しながら、将来世代が利用できる森林の再生を行ってきました。

森林再生をしていく過程で、たくさんの木が処理されました。厚真町の中で大切にされてきた木が何の思いもなく処理されていく状況に、「今まで大切にしてきたものをもう一度大切にするのをあきらめない」という思いが募ったとのことです。
そうした思いをもとに、このプロジェクトが始まりました。

森林は傷ついたけれど、仲間たちがまわりにいて、仲間たちの思いに共感して、厚真に来てくれる人も出てきました。製材をする中川さん、木工製品をつくる鈴木さん、地域おこし協力隊の坂野さん、デザイナーの三木さん、などいろいろなメンバーが厚真に来てくれました。
だんだん厚真の森に関わる人が増えている、という実感の中でプロジェクトが進んでいるそうです。

今後あらためて何を目指すかについては、地震を1つのきっかけにしながらも、森林の持つ不規則性(多様性)を魅力化するものづくりをしていきたい、とのことです。
「震災を越えて自然攪乱を受容し、柔らかさのある森林との共生関係の再構築をしていく。そして、森林を軸に人と人、人と森が活かしあう、そんな関係性を築いていきたい。」
そういう宮さんの思いが伝わるお話でした。



「もったいない」からはじまるヤマと木の話


今回のイベントのテーマは、“「もったいない」からはじまるヤマと木の話”です。
ATSUMANOKI 96メンバーが普段の仕事で感じていることを通じて、あらためて山や森との関わり方について考えます。
厚真在住でデザイナーの三木奈津美さんがファシリテーターとして林業の現場で活躍するメンバーと話をしました。

林業の現場ではトラック単位でものを考えるので、トラックに積みきれないものは価値が下がってしまうことがあります。また、丸太にならない細い木は、持ち帰ることがコストになるため切った後そのまま捨てられてしまいます。
枝打ちされて捨てられる木は「ボサ」と呼ばれています。そういった状況が”もったいない”、と丹羽さんは感じていたといいます。

また、丸太を作る段階で根本の部分は適さないので、根本の部分を切った「オイアゲ」も現場に大量に置いてくるそうです。

また、民家の木を切ってほしいと頼まれた時、大切に育ててきた木を切って捨ててしまうのはもったいないと思い、保管しているそうです。中には製材できるものもあるので、それを板にして保存しているそうです。
木を大切にするところから、もったいないを少しずつ改善していきたいと、丹羽さんは語りました。


中川さんは、山で林業をしている時に、その木がどのように使われているかわからなかったことが、製材を始めるきっかけになったと言います。
また、何かに使えそうなのに有効利用されていない木材を見て、それをどうにかしたい、という思いがあったそうです。

曲がっていたり、通常は製材には使われない木を買ってきたりして、それを製材して何かに使えないかと工夫しているそうです。
例えば、壁板やフローリングに利用したり、テーブルを作ったり、と工夫すればいろいろな使い道があります。そして、板にならなかったものは自宅のストーブの薪にするなど、最後まで使い切っています。

中川さんは、有効に使われていない木材を、より有効に、カタチが残るように使いたいと語ります。


鈴木さんが木工を始めたきっかけは、捨てられてしまう木があることを知って、それに少しでも価値をつけてかっこよく残したい、という想いからでした。
それから、厚真町の木を使ったものづくりを始めました。

乾燥された木材は端に割れ目が入り端材になってしまうことが多いので、それを利用してスプーンやペンなどの小物を作っています。

鈴木さんはどんな木材でも何かに使えるのではないか、木材を無駄にしたくない、という気持ちから、なかなか木材を捨てられないと言います。

また、お皿を作る際に出る削りカスを再利用できないか、検討しているそうです。
鈴木さんの「木を大切に使いたい」という気持ちは、今回のATSUMA96プロジェクトの想いに通じています。


西埜さんは、馬を使って間伐搬出作業をする、馬搬という仕事をしています。
この写真に映っている馬のカップは、競走馬を引退して馬肉になりそうだったところを救われ、西埜さんの相棒になったそうです。

日本ではめずらしい馬搬ですが、欧米では山を傷つけずに木材を山から運び出す手法として古くから使われてきました。馬をしっかり調教すれば、かなり大きな荷物を運ぶことができます。
「馬はすごい、林業で馬の力をもっと活用したほうがいい」「急な斜面を登ったり、道がなくても山に入れるので、馬の力を使わないのはもったいない」
と西埜さんは言います。

西埜さんは林業だけではなく、ワイン園での作業も行っています。
これからもいろいろな分野で馬の力を活用していきたいとのことです。

また、最近家を建てたという西埜さん。捨てるような木材を有効活用したそうです。
薪ストーブには山仕事で出た端材を利用するなど、仕事にも暮らしにも自然の循環が感じられます。


地域おこし協力隊として厚真町へやってきた坂野さん。
林業の仕事をしながら、CNCルーターを導入し、ものづくりに挑戦しています。
捨てられてしまうような材料を積極的に活用し、今回のプロジェクトでのプロダクトづくりも中心になって行っています。

坂野さんは、いかに無駄な材をつくらないかを心がけながらものづくりをしています。

それでも出てしまう枠の部分をどう使うかが、坂野さんの悩みだと言います。
そこで、残った部分を利用して箸置きなど小さなものを作り、できるだけもったいない部分を残さないようにしているそうです。

坂野さんは岩手とドイツで林業を学び、馬の代わりにバッテリーで動く「山猫」という搬出機械を使うなど、いろいろな分野で挑戦しています。


永山さんは、厚真町地域おこし協力隊林業支援員として厚真町にやってきました。以前は農業従事者だった永山さんは、丹羽林業で林業を学びました。
さらに、高度な技術を要する樹上伐採を学び、仕事に活かしています。
永山さんはいかに木を生かすか、を常に考えていると言います。

例えば、電線の邪魔になるという理由で切られた木。立ち枯れしてしまっていますが、本来ならば木材として使えたものです。

永山さんは、まわりに民家などがあって木を倒すスペースがない場所で、木に登って枝を切る高度な技術を必要とする仕事をしています。
木があって日陰になってしまうので木を切ってほしい、という依頼を受けた際は、できるだけ木を生かす方法を考えながら行うそうです。

また、せっかく森があるのに使われていないのはもったいないと思い、子どもたちやその親たち、一般の人たちに森での遊び方を教え、森の普及に努めているそうです。

ATSUMANOKIメンバーは、山、森の資源をできるだけ無駄なく使い、「もったいない」を減らすことを、仕事と生活に取り入れています。その姿はとても自然で、なんだか楽しそうにも見えました。



「もったいない」からはじまるプロダクト制作


2020年にスタートしたプロジェクトは、「忘れ行く災害の記憶を、年輪に刻もう」というフレーズとともに、被災した木々をプロダクトとしてアップサイクルすることを目的としていました。
その開発過程において、被災木だけでなく、森には伐採の際に活用されず捨てられてしまう木々も多くあることから、「厚真の生態系の中で循環するプロダクト」と再定義し、これまでプロダクトづくりを進めてきました。

プロジェクトのテーマでもある「循環」と「再生」。
地震で被災し取り壊しされる建物にあった古材。表面は黒ずんでいるけれど、手間をかけて一皮削ればまだ使える木材は、「ITATANI」というプロダクトに生まれ変わりました。

そして、山で行う「枝払い」で落ちた木の枝は「VOSA HOOK」というプロダクトとして生まれ変わりました。




「もったいない」から誕生した新プロダクト


ITATANI、VOSA HOOKに続き、今期また新たなプロダクトづくりに取り組んできました。
前回に引き続き、ろくろ舎の酒井さんがアートディレクターとしてプロダクトの監修を行いました。
酒井さんは、「厚真メンバーのもったいないという気持ちをどう拾い上げてカタチにしていくかが自分に与えられたミッションだった」と言います。それは昨年のITATANI、VOSA HOOKから共通する思いです。

今回のテーマとして選んだのが、オイアゲです。
オイアゲとは、丹羽さんの話にもあった、丸太を採る際に取り除いた根本のいらない部分のことです。

酒井さんは、町で多くの人に利用されるプロダクトにすることを軸に考え、
チェーンソーを使える人なら作ることができ、厚真町だけでなく、厚真町の外にも広がっていくことを描いた理想的なプロダクトを開発しました。

それが、自転車スタンドです。

斜めにカットすることで、どんなタイヤの自転車でも収まるように加工しています。

黒い塗装でスタイリッシュに仕上がっています。

これからいろいろな種類の「オイアゲ」が出来る予定です。
そして、今後「オイアゲ」が厚真町から広がり、多くの人に使われることを願っています。



今後の展望


次に、ATSUMANOKIメンバーから今後の展望について発表がありました。

丹羽林業の敷地内でお店として使われていた建物を、ATSUMANOKIの新拠点として改修します。

今後、拠点づくりのワークショップや、拠点づくりのためのクラウドファンディングも予定しています。
拠点が完成したら、ものづくりのワークショップ、カフェ、林業に関するツアー、なども行っていきたいとのことです。これからもATSUMANOKIの活動から目が離せません。


最後に、全国から集まった参加者の皆さんと交流会を行いました。
プロジェクトが始まった当初から参加してくれている方や、最近ATSUMANOKIの活動を知った方、いろいろな方とお話し、交流を深めました。
今後のワークショップにぜひ参加したいという方もいて、これからもさらに交流が深まっていきそうです。

厚真町から始まったプロジェクトも、少しずつ全国に広がりつつあります。
全国から応援してくれる方々と共に、この活動をこれからも育てていきたいと思います。