
「15時の開放感」を、一枚のビジュアルに。サッポロビール「IPA COLA」制作の舞台裏【体験ができるまで。#10】
15時。
昼食後の眠気と、終わっていない仕事。
オフィスの冷蔵庫を開けても、あるのはいつものコーヒーだけ。
その「なんとなく繰り返される午後」を、少しだけ変えられないか…。
今回は、サッポロビール株式会社(以下、サッポロビールさん)の新商品「IPA COLA(アイピーエーコーラ)」のテスト販売に向けて、dot button companyがキービジュアル制作のディレクションを担当したプロジェクトをご紹介します。IPA COLAは、ホップの香りと苦味が特徴のビアスタイル「IPA」をヒントに、ホップエキスを使用したビターな味わいの大人向けコーラです。2026年3月18日に販売を開始しました。
サッポロビール直営オンラインストア シュパーク
※IPA COLAのテスト販売は終了しています。
クライアントとクリエイターの間に立ちながら、どのようにプロジェクトを前に進めていったのか。ここからは、ディレクションを担当したdot button companyの谷口萌衣子が、その舞台裏を振り返ります。

はじまりは「15時のオフィス」という問い
今回のプロジェクトは、以前dot button companyが設計・運営を担っていた北海道に挑戦の文化を育み、挑戦者と応援者をつなぐサッポロビール社の新規事業「ほっとけないどう」でのご縁からスタートしました。キービジュアル制作だけではなく、
「この商品を、働く人たちにどんな体験として届けるか」
という視点も含めてご相談いただいたことがきっかけです。
最初の打ち合わせでサッポロビールさんから明確なコンセプトやターゲットの定義と、完成した缶体のデザインを共有いただきました。
「一度仕事から離れてひと息つきたい。でも、もうひと頑張りしたい。」
そんなオン・オフの切り替えの時間の新たな選択肢として誕生した、ホップエキスを使用したビターな味わいの大人向けコーラ。
これまでになかった発想やコンセプトにワクワクしながら、キービジュアルを通してどう体験価値を表現するかという問いへ、サッポロビールの担当者 指田さんと共に向き合っていくことになったのです。
商品の個性を引き出すチームづくり
まずはこの新商品の魅力を最大限に表現してくれる、パートナーとのチームづくりに着手しました。
お声かけしたのは、デザイナーでありカメラマンの三宅恭平さん(以下:恭平さん)です。
恭平さんは、映像・写真・デザインを横断しながら、カルチャー感のある空気づくりを得意とするクリエイターで、池尻大橋では「Whims coffee and bar」というお店を構えています。
今回のプロジェクトでは、缶体のクールなパッケージデザインの印象を活かしながらも、飲料としての思わず飲みたくなる表現に加え、クラフトビールやクラフトコーラといった文脈から発展したプロダクトとしての世界観づくりが重要なポイントの1つだと考えていました。
そこで、恭平さんであれば、飲食の魅せ方にもご知見があり、大手食品メーカーなどでの広告制作の実績もあることや、クラフトコーラやクラフトビールを好む層にも深く刺さるビジュアルを表現いただけると考え、ご一緒することになりました。

利用シーンを限定せず、商品の魅力を伝える
制作の過程では、恭平さんから商品に合わせたシーンやターゲットを強調するパターン、王道の飲料広告パターンなど、さまざまな切り口のラフ案を提案いただき、「今回のテスト販売に最も合う方向性」を整理していく必要がありました。
その中で、私たちが話し合ったのは、「主なターゲットは意識しつつ、ビジュアルでは職業や利用シーンを限定しすぎない」ということでした。
たとえば、時計やスーツ姿を前面に出せば、「15時のサラリーマン」はわかりやすく伝わりそうです。でも、テスト販売の段階で世界観を固定しすぎると、本来届くかもしれないターゲットまで狭めてしまう可能性があるということをお伝えしました。
そこで最終的には、強いモチーフやコンセプト性の高い表現ではなく、15時の日差し、クラフト感のある質感、重圧からの開放を感じさせる余白や温度感で表現していく方向に絞っていきました。

商品のパッケージが持つ強さを生かしながら、見る人が自分自身の午後を重ねられるようにする。そのために、サッポロビールさんと恭平さん、それぞれが持つ意図を整理しながら、
- なぜこの方向性なのか
- なぜこの表現が今回に合っているのか
を、一つずつ言葉にしてすり合わせていきました。
表現の意図を、テスト販売で何を伝えたいのかという視点に結びつけ、判断の理由を共有していきました。
双方が納得できる理由を言葉にすることも、ビジュアルの方向性を定めるうえで大切にしていたことです。
商品を味わった感覚を魅力的に演出
デザインの方向性が固まった後は、キービジュアルに載せるコピーをどのように表現していくかを検討しました。
キービジュアルを通して、その価値を正しく、そして魅力的に伝えることを意識しています。
やはり、どれだけコンセプトやビジュアルが魅力的でも、実際に飲んだときの体験とかけ離れていては、その価値は十分に伝わりません。
事前に送っていただいた試飲用のドリンクを飲んでみると、一般的なエナジードリンクなどのシャキッと覚醒させるような強い刺激感というより、どちらかというと優しく、リラックスした気分に寄り添ってくれる味わいでした。
モノクロのスタイリッシュさ・浮遊感のあるパッケージとのバランスを考慮しながら、実際の味わいから生まれる心地よい時間や気分の変化が自然と想像できるような表現を目指しました。

キービジュアルに添えたコピーは、「仕事の合間に、おとなコーラ。」です。
実は、恭平さんのアイデアで、コピーのタイポグラフィには非常に細かな作り込みがされています。
タイポグラフィも複数案いただいた中で、メインターゲットである30〜40代の働くビジネスパーソンが自然に受け取れるよう、硬すぎず、かといって軽すぎない。少し余裕がありながらも、キリッとした印象を持てる文字組みをしているものを選んでいます。
さらに、このコーラを飲むことで感じる「15時の仕事の重圧から少し開放される感覚」をどう表現するかも、大切なポイントでした。
そこで、テキストの配置は、腕時計で「15時」を見たときの角度をベースに設計し、文字が少し滲みながら広がっていくような表現を採用しています。
これは単純なデジタル加工ではなく、恭平さんのアイデアで、一度プロジェクターで文字をスクリーンに投影し、それを実際に撮影してトレースするという方法で制作しました。
少しだけ歪む。
少しだけ広がる。
そのわずかな揺らぎによって、張り詰めた状態から少し力が抜けていくような、「15時の開放感」をキービジュアルの中に落とし込んでいただいています。
恭平さんと連携し、グラスの質感や光の差し込み方など細部まで丁寧に調整しながら、「飲んでみたい」だけでなく、「その感覚を体験してみたい」と感じてもらえるキービジュアルを目指しました。
決めた方向性を、確実に形にする制作進行
表現の方向性を決めることと、それを制作の現場で形にすること。その両方を支えるために、私たちは合意事項と確認の手順を整理していました。
新規事業のプロジェクトでは、関わる人も多く、確認フローも複雑になります。
だからこそ、制作進行中に大きな認識のズレや手戻りが発生してしまうと、プロジェクト全体に大きな影響を与えてしまいます。
そのため私は、
- どの方向性で進めるのか
- 何が決まったか
- 何が未確定なのか
- 誰がどこを判断するのか
- いつまでに何を確認するのか
を一つひとつ丁寧に整理しながら進めていました。
合意事項の整理やスケジュール管理、判断タイミングの設計、必要素材の確認、関係者とのコミュニケーション整理など、一見すると地味に見える作業かもしれません。
何が決まり、次に誰が何を判断するのかを明確にする。そうして関係者が同じ方向を向いて制作を進められる状態をつくることも、品質を支えるディレクターの役割だと考えています。

観察と経験を組み合わせ、体験をつくる
取材を終えて|齊木日菜
この記事を執筆した、新メンバーの齊木(さいき)です。
今回のインタビューを通して、私自身にとって大きな気づきがありました。これまで私は、キービジュアルやデザインはデザイナーのひらめきや感性によって、何もないところから生まれてくるものだと思っていました。もちろん発想力は大切です。
ただ今回の話を聞いていて感じたのは、新しいアイデアも決してゼロから生まれるわけではないということでした。
15時の日差しや腕時計の角度、クラフトビールの世界観、飲んだときの印象。そうした既存の要素や日々の観察、経験の積み重ねが組み合わさることで、一つの体験やデザインが形になっていく。
私が以前働いていた医療現場でも、過去の症例や知識を参考にしながら、目の前の患者さんに合った方法を考えていました。分野は違っても、観察し、学び、それらを組み合わせながら新しい価値をつくるという点では共通しているように感じます。
私たちが普段「なんだかいいな」と感じる体験も、こうした小さなインプットや工夫の積み重ねから生まれているのかもしれません。
あなたが最近、「なんだかいいな」と感じた体験は、どんなものでしたか?
ここまで読んでくださった方へ
このプロジェクトでdot button companyは、関係者との対話を重ねながらコンセプトを整理し、複数のパートナーをつなぎ、キービジュアル制作のディレクションを担当しました。
私たちが大切にしているのは、3つのことです。
①見抜く
課題の表面だけでなく、その背景や温度まで向き合い、本質を見抜くこと。
②つなぐ
必要な人・場所・専門性をつなぎ、プロジェクトに最適な体制をつくること。
③実装する
構想で終わらせず、企画・制作・運営まで伴走し、一過性で終わらない仕組みとして実装すること。
商品の価値をどう伝えるか。誰とチームを組み、どう制作を進めるか。
dot button companyでは、こうした企画・制作のご相談を受け付けています。まだ課題が整理しきれていない段階からでも、ぜひお話を聞かせてください。
今回ご紹介したプロジェクト
「IPA COLA」
サッポロビール公式紹介ページ
dot button company株式会社
dot button companyは、体験を開発する会社です。想いだけでは届かない。場をつくるだけでも、仕組みを整えるだけでも、社会は変わらない。
見過ごされがちな視点から本質を見抜き、再定義した価値を、人が実感できる形にする。そのために、私たちは体験を開発します。
インタビュアー・文:齊木日菜
齊木日菜(dot button company 新メンバー)
1999年生まれ、東京都出身。3年間の病院勤務(理学療法士)を経て、dot button companyへ。きっかけは「試着室に行けない」という患者さんの声。環境を少し変えるだけで、笑顔になれる人がもっといるはず。その可能性を信じて、ニュージーランドでの1年を経て新しい道を選択。日常の「ちょっとした不自由」をワクワクに変えるヒントを求めて、今日も現場を奔走中。新メンバーとして、プロジェクトに隠された物語を先輩たちに根掘り葉掘り聞き出しながら学習中!
関連するテーマから、ほかの事例を探す
この記事に関連するテーマの記事をまとめています。ご関心の近いテーマから、ほかのプロジェクト事例もあわせてご覧ください。
体験づくりのご相談
dot button companyは、地域や企業の課題に伴走しながら「体験」を設計・開発しています。「何から手をつければいいか分からない」という段階のご相談も歓迎です。企画づくり、場づくり、ブランディング、イベント運営まで、まずはお気軽にお問い合わせください。
ご依頼の流れや体制は事業者・法人のみなさまへ、これまでの取り組みや会社概要はdot button companyについて、よくいただくご質問はよくある質問(FAQ)にまとめています。